漸化式で定義された数列の極限
今回は、受験数学にありそうな難しめの数列の極限の問題を解いていきたいと思います。それでは、よろしくお願いします。
問題
\(a_1 = 1, \ a_{n+1} = a_n + \frac{1}{a_n}\) で定義される数列 \(\{a_{n}\}\) について、以下の極限を求めよ。 \[ \lim_{n \to +\infty} \frac{a_n}{\sqrt{n}} \]
難易度としては、東京一工orそれ以上のレベルかなと思います。たぶん、実際に出題されるときは誘導がつくと思います。 気分が良いので、かなり丁寧に解説してみます。
解説
step0.数列 \(\{a_n\}\) が発散することを確認する
そもそも、数列 \(\{a_n\}\) が発散するのって、非自明じゃないですか...?ということで、そこから確認していきましょう。 いきなり柔軟な発想が必要ですが、まず、漸化式の両辺を二乗します。すると、 \[a_{n+1}^2 = a_n^2 + 2 + \frac{1}{a_n^2}\] を得ます。ここで、\(b_n = a_n^2\) とすれば、 \[b_{n+1} = b_n + 2 + \frac{1}{b_n} > b_n + 2\] となるので、\(b_n > 2n-1\) となるから、\(\lim_{n \to +\infty} b_n = \infty\) となり、\(\lim_{n \to +\infty} a_n = \infty\) も得られます。
step1. \(a_n\) の発散の速度が \(\sqrt{n}\) であることを理解する
まずは、軽く見積もりをしていきます。step0と同様に \(b_n\) を定めたときに、 \[2n-1 \leq b_n \leq 3n-2\] であることから、 \[\sqrt{\frac{2n-1}{n}} \leq \frac{a_n}{\sqrt{n}} \leq \sqrt{\frac{3n-2}{n}}\] となるので、 \[\sqrt{2} \leq \lim_{n \to +\infty} \frac{a_n}{\sqrt{n}} \leq \sqrt{3}\] を得ることができました。したがって、発散のオーダーは \(\sqrt{n}\) でよさそうです。 軽い見積もりもできましたが、ここからもっと丁寧に評価していかなければなりません。 実は、ここからはそこそこ難しいです。
step2.評価の方針を立てる
やはり注目したいのは、この式です。 \[b_{n+1} = b_n + 2 + \frac{1}{b_n}\] このことから、 \[b_{n+1} = b_1 + 2n + \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{b_k}\] となります。 この式において、\(\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{b_k}\) を無視すれば、極限: \(\lim_{n \to +\infty} \frac{a_n}{\sqrt{n}}\) は \(\sqrt{2}\) になりそうなことが予想できますね。 無視をせずにしっかりと評価します。
\(b_n\) に関する評価は、 \[2n-1 \leq b_n \leq 3n-2\] を用いましょう。 \[\frac{1}{3n-2} \leq \frac{1}{b_n} \leq \frac{1}{2n-1}\] となりますね。 \[\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{3k-2} \leq \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{b_k} \leq \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{2k-1}\] このように変形できれば、積分での評価が思いつくのではないでしょうか。
step3.厳密な評価をする
右側の不等式と左側の不等式はそれぞれ、 \[\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{2k-1} < 1 + \int_{1}^{n} \frac{1}{2x-1} dx = 1 + \log{\sqrt{2n-1}}\] \[\log{\sqrt[3]{3n+1}} = \int_{0}^{n} \frac{1}{3x+1} dx < \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{3k-2}\] となります。問題ないですね。
よって、以上より、 \[\log{\sqrt[3]{3n+1}} < \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{b_k} < 1 + \log{\sqrt{2n-1}}\] を得ます。よって、 \[\frac{1}{n+1}\left(b_1 + 2n + \log{\sqrt[3]{3n+1}}\right) < \frac{b_{n+1}}{n+1} < \frac{1}{n+1}\left(b_1 + 2n + \log{\sqrt{2n-1}}\right)\] となります。ここで、 \[\lim_{n \to +\infty} \frac{1}{n+1}\left(b_1 + 2n + \log{\sqrt[3]{3n+1}}\right) = 2, \ \lim_{n \to +\infty} \frac{1}{n+1}\left(b_1 + 2n + \log{\sqrt{2n-1}}\right) = 2\] なので、はさみうちの原理から、 \[\lim_{n \to +\infty} \frac{b_{n}}{n} = 2\] を得ます。よって、 \[\lim_{n \to +\infty} \frac{a_{n}}{\sqrt{n}} = \sqrt{2}\] が示せました。