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三角関数の不等式

今回は、普段なかなか目にすることのない三角関数を含んだ不等式を解説していきます。イェンゼンの不等式、AM-GM、基本的な三角関数の知識があれば解くことができます。それでは、よろしくお願いします。

問題

問題: 三角関数の不等式

\(A+B+C= \pi\) のとき、以下が成り立つことを示せ。 \[ \sin A\cos B\cos C+\sin B\cos C\cos A+\sin C\cos A\cos B\le\frac{3\sqrt{3}}{8} \]

三角関数の問題はできることがかなり多いです。

解説

step1では、二通りの解法を紹介します。

step1-1.評価しやすい形への変形1

まず、\(\tan A+\tan B+\tan C=\tan A\tan B\tan C\) が成り立つことを示す。

\[ \begin{align*} \tan A & = -\tan (\pi -A) \\ & =-\tan{(B+C)} \\ & =-\frac{\tan B+\tan C}{1-\tan B\tan C} \\ \end{align*} \] 両辺に \((1-\tan B\tan C)\) をかけて整理することで、以下を得る。 \[\tan A+\tan B+\tan C=\tan A\tan B\tan C \ \cdots(1)\] \((1)\) の両辺に \(\cos{A}\cos{B}\cos{C}\) をかけることで目的の式を得る。 \[\sin A\cos B\cos C+\sin B\cos C\cos A+\sin C\cos A\cos B = \sin{A}\sin{B}\sin{C}\]

step1-2.評価しやすい形への変形2

\(\sin{(A+B+C)}\) を加法定理により計算すると、 \[\sin{(A+B+C)} = \sin A\cos B\cos C+\sin B\cos C\cos A+\sin C\cos A\cos B -\sin{A}\sin{B}\sin{C} \cdots (2)\] を得る。一方で、\(A+B+C=\pi\) であるから、\(\sin{A+B+C} = 0\) である。よって、\((2)\) にこれを代入して以下を得る。 \[\sin A\cos B\cos C+\sin B\cos C\cos A+\sin C\cos A\cos B = \sin{A}\sin{B}\sin{C}\]

step2.不等式として処理をする

相加相乗平均の不等式より、 \[ \frac{\sin A+\sin B+\sin C}{3}\ge\sqrt[3]{\sin A\sin B\sin C} \] を得る。両辺を三乗すると, \[ \left(\frac{\sin A+\sin B+\sin C}{3}\right)^{3}\ge\sin A\sin B\sin C \] を得る。等号成立は、\(A=B=C=\frac{\pi}{3}\) である。\(sinX\) は \(0 < X < \pi\) で上に凸だからイェンゼンの不等式より、 \[ \left(\frac{3\sin\frac{A+B+C}{3}}{3}\right)^{3}\ge\left(\frac{\sin A+\sin B+\sin C}{3}\right)^{3} \] が成立する。これを整理すると、 \[ \frac{3\sqrt{3}}{8}\ge\left(\frac{\sin A+\sin B+\sin C}{3}\right)^{3}\ge\sin A\sin B\sin C=\sum_{cyc}^{ }\sin A\cos B\cos C \] を得る。このとき、全ての不等号について等号成立条件は \(A=B=C=\frac{\pi}{3}\) で一致しているため題意は示された。

まとめ

・三角関数では加法定理や積和・和積の公式が有効なことがあります。

・\(a+b+c=abc\) という条件が与えられたときに、\(x+y+z=\pi\) なる \(x, \ y, \ z\) を用いて \(a=\tan{x}, \ \) \(\ b=\tan{y},\) \(c=\tan{z} \) と置換することが多いです。

・イェンゼンの不等式はとても強力です。特に、三角関数でなくても有効なことがあります。