有名な関数方程式 (関数方程式入門#2)
今回は関数方程式入門講座の二回目です。今回は有名な関数方程式について扱っていきます。 最終回まで終わったら、完全版のPDFを配布したいと思います。 今回も、みかんさん(X:@_mikan_kankitsu)、翔子さん(X:@shoko_math) には大変お世話になりました。ありがとうございます!! それでは、よろしくお願いします。
LaTeXで作成したPDFバージョンもあります。こっちのほうがきれいなのでおすすめです。
Cauchyの関数方程式(\(\mathbb{Q} \to \mathbb{R}\))
関数方程式を解いていると、有名な形に帰着されることが多々あります。ここでは代表的な形を二つほど紹介します。 この問題のように、整数→有理数などと拡張していく手法は有効ですので抑えておきましょう。
\(f:\mathbb{Q} \to \mathbb{R}\) が任意の有理数 \((x,y)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[f(x)+f(y)=f(x+y)\]
このシンプルな形の式がCauchyの関数方程式です。確かにいろいろな関数方程式から帰着されそうです。この問題は意外と複雑です。 ゆっくりと丁寧に解いていきましょう。
1. 解の予想
いかなる時でも、解の予想は欠かせません。\(f(x)=cx\) (\(c\) は任意の実数) が唯一の解であると予想できます。 特に、\(P(0,0):f(0)=2f(0)\) より、\(f(0)=0\) となります。
2. \(n\) が正整数の範囲で \(f(nx)=nf(x)\) を示す
まずは正整数を中心に考えていきます。任意の正整数 \(n\), 有理数 \(x\) に対して、\(f(nx)=nf(x)\) であることを数学的帰納法から示していきます。
証明
\(f(1\cdot x)=1\cdot f(x)\) である。正整数 \(k\) に対して、\(f(kx)=kf(x)\) と仮定する。このとき、以下が成立する。 \[P(kx,x):f((k+1)x)=f(kx)+f(x)=kf(x)+f(x)=(k+1)f(x)\] であるから、帰納的に任意の正整数 \(n\), 有理数\(x\) に対して \(f(nx)=nf(x)\) であることが示された。 \(\blacksquare\)
3. \(n\) が整数の範囲で \(f(nx)=nf(x)\) を示す
2での結果を利用しましょう。
証明
\(n\) を正整数とする。\(P(nx,-nx):f(0)=f(nx)+f(-nx)\) であるから、\(-f(nx)=f(-nx)\) である。 \(f(nx)=nf(x)\) であるから、\(f(-nx)=-f(nx)=-nf(x)\) を得る。任意の整数 \(n\), 有理数\(x\) に対して、\(f(nx)=nf(x)\) であることが示された。 \(\blacksquare\)
4. \(r\) が有理数の範囲で \(f(rx)=rf(x)\) を示す
3での結果を利用しましょう。有理数\(r\) は整数 \(m,n\) を用いて、\(r=\frac{n}{m}\) と表すことができるので、これをそのまま適用します。
証明
\(n,m\) を \(0\) でない整数とする。3での結果より、 \[mf \left(\frac{n}{m}x \right)=f \left(m\cdot \frac{n}{m}x \right)=f(nx)=nf(x)\] であるから、\(f \left(\frac{n}{m}x \right)=\frac{n}{m}f(x)\) すなわち、\(f(rx)=rf(x)\) を得る。 \(\blacksquare\)
5. 仕上げ
4での結果に \(x=1\) を代入します。 \(f(r) = rf(1)\) であり、\(f(1)=c\) (\(c\)は任意の実数) とすれば \(f(x)=cx\) となります。 逆に、\(f(x)=cx\) は与式を満たすから求める \(f\) は \(f(x)=cx\) です。(十分性の確認を忘れないようにしましょう)
Cauchyの関数方程式(\(\mathbb{R} \to \mathbb{R}\))
\(f:\mathbb{R} \to \mathbb{R}\) が任意の実数 \((x,y)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[f(x)+f(y)=f(x+y)\]
さて、Cauchyの関数方程式を有理数までで解くことはできました。では、実数に拡張するとどうなるでしょうか? 実は選択公理というものを認めれば関数になんの制約もないとき、解が \(f(x)=cx\) 以外にも病的な解がたくさん存在してしまいます。 選択公理を認めた場合は競技数学というよりは本格的な大学数学になってしまうのでここでは詳しくは触れません。 制約がある場合についてみていきます。以下が代表的な制約です。
- \(f\) がある1点で連続関数である
- \(f\) がある区間で単調増加(減少)である
- \(f\) が可測である
- \(f\) がある区間で有界である
この中だと使用頻度が高いのはある1点で連続であるというものです。\(f\) がある1点で連続であるとき、\(f\) は加法性を用いることで連続関数であると分かり、有理数の稠密性より \(f(x)=cx\) であることが得られます。 最初から連続関数であることが与えられるケースも多いです。 可測性や単調性に関しては選択公理と同じく本格的な大学数学になってしまうので、知識として知っておく程度でも良いかもしれません。
Cauchyの関数方程式-応用
\(f:\mathbb{Q} \to \mathbb{R}^+\) が任意の有理数 \((x,y)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[f(x)\cdot f(y)=f(x+y)\]
\(g(x)=\log{f(x)}\)という置換を考えるのがポイントです。両辺のlogを考えて、置換を適用してみましょう。すると、 \[g(x)+g(y)=g(x+y)\] となって、Cauchyの関数方程式に帰着されて、\(g(x)=cx\) (\(c\)は任意) を得ます。よって、\(f(x)=e^{cx}\) (\(k,c\)は任意)となります。 しかし、これは\(f(x)=(e^c)^x\) ですから、\(C=e^c\) とすれば \(f(x)=C^x\) (\(C\) は任意の正実数)となりますね。 うまい置換を考えて、関数をより簡単な形に帰着されるのは頻出なので抑えておきましょう。
\(f:\mathbb{Q} \to \mathbb{R}^+\) が任意の有理数 \((x,y)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[f(x)\cdot f(y)=f(x+y)\]
ここからは例題ではなく問題です。ぜひご自身で、適切な置換を考えてみてください。
解答
\(g(x)=f(k^x)\) なる置換を考える。 \[g(x)+g(y)=g(x+y)\] に帰着されるから、\(g(x)=cx\) である。よって、\(f(k^x)=cx\) であるから、\(k^x\) を \(x\) に置き換えれば \(f(x)=c\log _k{x}\) である。
\(f:\mathbb{Q}^+ \to \mathbb{R}^+\) が任意の正の有理数 \((x,y)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[f(x)\cdot f(y)=f(xy)\]
解答
\(g(x)=\log{f(e^x)}\) なる置換を考える。 \[g(x)+g(y)=g(x+y)\] に帰着されるから、\(g(x)=cx\) である。よって、\(\log{f(e^x)}=cx\) であるから、\(e^x\) を \(x\) に置き換えれば、\(f(x)=e^{c\log{x}}\) である。 また、\(e^{c\log{x}}=x^{c}\) である。よって、 \(f(x)=x^c\) (\(c\) は任意の正実数)である。
Jensenの関数方程式
\(f:\mathbb{Q} \to \mathbb{R}\) が任意の有理数 \((x,y)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[\frac{f(x)+f(y)}{2}=f\left(\frac{x+y}{2}\right)\]
1. 解の予想
やはり解の予想は欠かせません。解が多項式の形で与えられると仮定して、最高次数に着目するなどして、一次式であることがわかりますから、\(f(x)=ax+b\) の形を代入して\(a,b\)の値の検討をしてみます。 すると、\(a,b\) は特に制約が無さそうなことがわかります。ということで、暫定的には\(f(x)=ax+b\) (\(a,b\)は任意)のみであると予想してみましょう。
2. Cauchyの関数方程式への帰着
\(f(x)=ax+b\) 型の関数が解であると予想できたらまずは \(g(x)=f(x)-f(0)\) の置換を考えるべきです。 定数項が \(0\) である場合、\(0\) を代入するだけで項が消せるので、積極的にこの置換を施すべきです。 実際に、今回の式ではこの置換を施しても元の式の \(f\) が \(g\) に変わるだけなので、元の問題に定数項が \(0\) であるという条件を加えて考えられるようになります。 \[\frac{g(x)+g(y)}{2}=g\left(\frac{x+y}{2} \right)\] \(P(x,0)\) を考えると、\(g(x)=2g\left(\frac{x}{2}\right)\) という式を得ます。これを与式に適用してみましょう。 \[g(x)+g(y)=2g\left(\frac{x+y}{2} \right)=g(x+y)\] となって、Cauchyの関数方程式に帰着することができました。
3. 仕上げ
Cauchyの関数方程式に帰着できたので \(g(x)=ax\) を得ます。よって、\(f(x)=ax+b\) (\(a,b\) は任意の実数)となります。
\(f:\mathbb{Q} \to \mathbb{R}\) が任意の有理数 \((x,y,z)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[\frac{f(x)+f(y)+f(z)}{3}=f\left(\frac{x+y+z}{3}\right)\]
AoPSリンク:https://artofproblemsolving.com/community/c6h2459736p20515743
解答
\(P\left(x,y,\frac{x+y}{2}\right)\) を考えることで、\(\frac{f(x)+f(y)}{2}=f\left(\frac{x+y}{2}\right)\) に帰着され、これはJensenの関数方程式である。 よって、解は\(f(x)=ax+b\) (\(a,b\) は任意) である。
演習問題
\(f:\mathbb{Q} \to \mathbb{R}\) が任意の有理数 \((x,y,z)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[f(x+y)+f(y+z)+f(z+x)=2f(x+y+z)\]
(ヒント:この問題はCauchyの関数方程式の記述の練習も兼ねています。)
+ 証明を表示/非表示\(f:\mathbb{Q} \to \mathbb{R}\) が任意の有理数 \((x_1,x_2,\cdots,x_n)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[\frac{f(x_1)+f(x_2)+\cdots +f(x_n)}{n}=f\left(\frac{x_1+x_2+\cdots +x_n}{n}\right)\] ただし、\(n\) は\(2\)以上の整数である。
(ヒント:先ほど扱った問題の拡張になっていますね。余裕があれば二通りでの証明を考えてみてください。)
+ 証明を表示/非表示↓別解
+ 証明を表示/非表示\(f:\mathbb{Q} \to \mathbb{R}\) が任意の有理数 \((x,y)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[f(x)+f(y)+2xy=f(x+y)\]
(ヒント:\(f(x)\)を予想し、それ以外に解がないことを示すために適切な置換を考えましょう。)
+ 証明を表示/非表示\(f:\mathbb{Q}_{\geq 0} \to \mathbb{R}_{\geq 0}\) が任意の有理数 \((x,y)\) の組に対して、以下を満たすとき \(f\) としてありうるものを全て求めよ。 \[f(x)^2+f(y)^2=f(x^2+y^2)\]
(ヒント:\(f(0)\)の値の候補が複数個出てくるかもしれません。その時は場合分けを考えてみましょう。重要なテクニックの一つです)
+ 証明を表示/非表示参考文献
[1] 鈴木晋一:『代数・解析パーフェクトマスター:めざせ,数学オリンピック』,日本評論社,2017
[2] マスオ:『コーシーの関数方程式の解法と応用』,高校数学の美しい物語,https://manabitimes.jp/math/619 ,2024/04/13
[3] 数学の景色:『【f(x+y)=f(x)+f(y)】コーシーの関数方程式について詳しく』,https://mathlandscape.com/cauchy-func-eq/ ,2024/04/15
[4] Evan Chen:『Introduction to Functional Equations』,https://web.evanchen.cc/handouts/FuncEq-Intro/FuncEq-Intro.pdf ,2024/04/15